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空師

その昔、空に一番近い職人といわれていた。

高い樹木に登り、樹の幹や枝を伐る特殊伐採をする職。その手順や技術は一般には知られていない。常に死と隣り合わせの中、一つとして同じでない自然に様々な技術と環境を利用して伐採していく。その職に魅了され志す男がいる。


高橋康範、50歳。

手に職をつけたくて転職し庭師の道に進む。庭師として充実した日々を送っていたある日、仲間からすごい大きな木を伐っている有名な人がいると教わる。

その人は日本屈指の空師であった。

そして数年後、偶然にも皇居で同じ現場に入れる事になる。そこで目の当たりした空師の巧みな技術に強烈な憧れを抱き、自らもこの世界に足を踏み入れる決意をする。

だがそこで言われたのは「申し訳ないけど今からやるんだったら体力的に無理だと思うよ、もう少し早ければ良かったんだけど。」当時30歳後半であった。

しかし空師になるのは無理でも大きな木を伐る時にその技術はやはり魅力的だ。「少しでも空師に近づきたい」その一心でその方の会社に手伝いに行っては、従業員の方々に教えてもらい見て盗み少しづつ技術の向上に励んだ。

都会での作業は凄い狭いところに大きい枝を下ろしたり、建物に当たらないように回して伐ったり難しい技術が必要とされる。

少しも油断出来ない仕事の中で、日々の積み重ねで技術を磨いてきた。

空師になって楽しいことを尋ねてみた。

「伐った時に思い描いた通りに木が動いた時が最高に気持ち良くて楽しい時だね。それが全て。」


タカハシ庭園 高橋康範


「師の方から名乗ってもいいよと言われてないんで今も空師とは自らは言えない。でも、もっともっと鍛錬して信頼できる仲間も増やし高橋に頼んだら大丈夫だよって言われるようになれればいいな。」


あとがき

この撮影で快く受けて頂いた高橋さん始め、撮影許可を頂き全面にご協力頂きました現場の方々に深くお礼申し上げます。そしてどれだけ危険な仕事か、都会での匠の技、チームワーク、そして何よりも自然をリスペクトする空師の素晴らしさを知ることができました。

最後に高橋さんにはいつか自分で空師と名乗れる時が来て欲しいと切に願っています。